Biscuit MEMO

PKG妄想や日常などのメモページ
ウォルターとピーターとメアリの、とある夜の小話。

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今宵は追想に浸りながら
「ピーターはさ、父さんの形見みたいなものは持ってないの?」
 僕がふと疑問に感じたのは、メアリがリビングのテーブルにファンシーな緑色のカイリューのぬいぐるみと紅茶の缶を並べ、本物のカメラマンさながらに手にしたカメラのレンズを慎重に合わせる姿が目に入ったからだった。
 ウィリアムという、僕の亡き父親が繋いでくれた縁で出会った僕とピーター、そしてメアリは最初に顔を合わせて以来、三人の休みが合う日はたまに兄妹のフラットに集い、楽しい夜を過ごすようになっている。恩人の息子は弟同然だと僕を執拗に可愛がるこの兄と姉を騙る二人は、今となっては不審者から理解ある不審者になっており、まだ認めたくない気持ちはあるものの、彼らに対して満更でもなくなっているのが現状だった。
 そして今夜もまた、こうして兄妹のフラットのリビングで思い思いに寛いでいたのだが、アマチュアの料理コンテストの番組を見てる最中にシャッター音が数度鳴れば無視することもできなくなり、メアリがぬいぐるみを撮影する方に気を取られるしかなくなったのだ。
「あれ、うるさかった?」
「いや、そういう訳じゃなくて。続けて」
 申し訳なさそうにカメラを小さい手で抱えるメアリに手をひらひらさせてからテレビに向き直ると、今度はコンテスト参加者の一人がチョコレートケーキを作っている画面が目に映った。
 字幕にはこうある。『亡き父のレシピを受け継いで──』
 そんな経緯があり、冒頭の言葉を口にしたのだった。日頃僕が身につけている赤いスカーフは、元々父さんのものだったと母さんは言っていた。そしてメアリが大切にする緑色のカイリューも、僕の父さんからの贈り物だと聞いた。思い返せば身近に形見を置いている僕達と違い、ピーターはそういったものを普段から身につけているようには見えなかった。あらゆる装いの彼を思い浮かべても、形見らしいものが容姿に取り入れられている様子はない。少なくとも僕の記憶上では。
「形見ねえ」ピーターが息をつき、ソファーに深く座り天上を見上げる。「このフラットそのものが形見みたいなモンだからな」
 思わずリビングを見回す。ここは元々父さんの住居で、それをピーター達が引き継いで暮らしている場所だ。確かにそう言われると言葉が出てこない。
「それに、クローゼットにあった服も借りる事があるし、CDだってある。俺はそれで充分だと思っている」
「父さんの服を着る事があるの?」
「ピーターが買わなさそうなやつは大体おじさまの服よ」
 気付けばメアリがぬいぐるみを抱えて僕が座るソファーの横に立っていた。耳をピンと立てたその姿は、話題に興味津々な様子を隠せないのが明らかだった。
「……そういや、派手な柄の青いアロハシャツを着ていた時があったけどそれって」
「そうよ、ピーターは赤い服しか買わないもの」
「おい、赤い服以外だって買うぞ。まああのアロハシャツはおじさんのものだがな」
 ピーターが鋭い目と歯を剥ける姿が滑稽で、僕はメアリと目を合わせてクスクス笑ってしまう。僕が気付かなかっただけでピーターも形見を身につける事はあったのだ。そう思うと悔しいながら嬉しいながら、よりこの自称兄に親近感がわいてしまう。
「ところでCDもあるって言ってたけど」
「CDなら……」
 ピーターがテレビ台の棚を開くと、そこにはCDのアルバムがズラッと並んでいた。メアリと一緒に近寄ると、知っているアーティストから初めて名前を聞くアーティストまで、様々なアルバムがそこにはあった。まるで宝箱のようだ──古本屋で有象無象の本に囲まれている時に近いワクワクが、棚の中に広がっている。しかもそれは全て父さんの思い出でもあるのだ。
「わあ懐かしい……おじさまがいた時よく聴いてたんだよ」
 メアリが僕に微笑んで棚から無造作に一枚を取り出した。幸い僕も知っているラテン音楽のギタリストのアルバムで、つい感嘆の声が漏れる。
「あったな。週末の夜には適当に取ったCDをかけて、それに合わせて庭で踊る遊びをやっててさ」
「そうそう、ピーターは踊りなんか脚に仕込んでないっていつも遠慮してて」
「だってそうだろ? なのにおじさんはいつも俺を引きずり出して……」
 遠い目をしながらも、満足気な声音のピーターにメアリがうんうんと頷く。僕が生まれた時に父さんは既にいなかった、だからピーター達が父さんとの思い出を楽しそうに語り始めると、途端に疎外感と嫉妬で心がギュッと掴まれる。羨ましくてたまらない、形見の有無なんかより、思い出がある方がずっといい。感情が溢れ出ないよう唇を噛み締める。
「ねえ、今やってみない? 折角取り出したんだから」
 唇から血が出ずに済んだのはメアリが僕に視線をちらと向けたからだった。この小さな異形の姉貴分の気遣いが心に沁みて、踊りを渋るピーターが愚痴をこぼすより前に僕は畳み掛けてやった。
「やろうよ! 僕だってやりたい! 父さんはいなくても、ここに父さんの思い出がある……僕もピーター達みたいに躍りたいんだ」
「ふふん、二体一よ。ピーター、ウォルターにあたし達の遊びを教えたっていいじゃない」
 まあ、うん……とそれでも唸るピーターにメアリは容赦なくCDを再生機に入れ、スピーカーのボリュームを上げる。
「それとも、かわいい弟の頼みが聞けないの?」
 これが決定打になったのは言うまでもなかった。実兄をよく知る妹だからこその一言に、ピーターは軽い悪態をついて立ち上がるとテレビを消し、カーテンを開き庭に繋がる窓を開けた。夜の涼しい風がふわっとリビングを駆け抜ける。
「言っておくが、俺は笑われた瞬間に蹴りを入れる方が得意だからな」
 足早に庭へと飛び出すピーターを尻目に、メアリはぬいぐるみをソファーに座らせて僕に片目を瞑ってみせた。
「ウォルター、確かにおじさまはいないけど……おじさまとの思い出はいくらでも共有できるし、あなたとの思い出だってこれから沢山作れる。それって素敵な事じゃない?」
「……うん!」
 メアリが僕の手を取り、共に庭へと足を踏み入れる。「俺たちの歌声は天使のように響き、そして夜の間ずっと踊った」と続くラテンロックのリズムに合わせて即興でステップを踏んでみせるとすっと心が軽くなり、そのまま棒立ちのピーターの腕を取った。
「お前やるな。その動き、おじさんみたいだ」
 この場でフィクションみたいに都合よく父さんの幻影が見える事はない。それでも二人とこうして月夜の中にいると、それだけで全身が、魂が満たされた気がした。
 ぎこちないピーターの踊りも、めちゃくちゃに躍り出すメアリも、辺りを照らす三日月も、ここにある全てが最高で、多幸感に包まれた空間があまりにも心地良くて笑いが止まらなくなる。メアリの言う通り、とても素敵な事だ。きっと昔も庭でこんな光景が繰り広げられたのだろう、でも今だってその時と同じくらい楽しい夜になっているはずだ。
「ありがとう、ピーターもメアリも、最高の兄さんと姉さんだよ」
 ピーターとメアリが目を丸くし、互いに顔を合わせた。それから二人は優しい笑みを浮かべて僕の手と腕を取ったまま抱きしめてきた。予想外の温もりに驚きつつも、それに応えないつもりはなかった。言葉はなくていい。僕はピーターとメアリが大好きだ。


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後書きとかおまけとか
父親も母親もいないけど、今は周りに頼れる大人がいるから心強いウォルターの話でした。加えて師匠のシノノメもいるので、もう一人ぼっちじゃない。

ウィリアム(ウェーニバル。ウォルターの父親で兄妹の恩人)についての呼称は
ウォルター→父さん
ピーター→おじさん
メアリ→おじさま
です。ピーターはウィリアムの形見の服を時々着るし、そのうち大きくなって服のサイズが合うようになったウォルターにいくつか譲る話もあったりする。

ちなみに作中に出てくる曲はこれのイメージ。

#剣
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エスルカの書きたいところだけをざーっと書いたSS。
エスルカは一緒に日常を過ごすにつれて互いの距離感が縮まっていくタイプのCPです。CPになった時もどちらから告白したとかじゃなく、気付けば結ばれていたような流れ。それくらいが二人には合っている。
ちなみにアレクシスは同性愛者です。

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ピーターもアレクシスのことが好きなのでこう思いながら背中を見送るんだ。

#剣